花粉症の季節が近づいてきました。毎年2月の半ばを過ぎるとスギの花粉が多量に飛び、花粉症の患者さんは、鼻水とクシャミが止まらない、鼻がつまって苦しい、目がかゆくて涙がボロボロ出るという症状になやまされます。年々花粉症患者さんの数は増え続けており、幼少期から発症する患者さんも増えています。毎年苦しんでおられる方も、最近になって花粉症がおこった方も、このページを参考にして、花粉症をよく知った上で対策をたてて下さい。

 近畿地方における令和2年のスギ・ヒノキ花粉飛散予測(飛散量は少なく過去10年間の平均値を下回ると予想されています。)

神戸で震災が起こった平成7年には過去最大量のスギ・ヒノキ花粉が飛散し、それ以降も数年おきに大量の花粉が飛散しています。昨年は久しぶりに全国で予想を上回る大量の花粉が飛散しました。これらの大量飛散の年から花粉症が始まったという患者さんがたくさんおられます。さて、今年はどれくらいのスギ・ヒノキ花粉が飛ぶのでしょうか?

 過去のスギ・ヒノキ花粉飛散量の推移を分析したデータによりますと、平成10年までは1年おきに多量に飛散する傾向にありましたが、平成11年以降は全般的に飛散量が増えているようです。またスギ・ヒノキの雄花の生育は前年夏の気候にも左右されます。

 春のスギ花粉飛散量予測値は前年夏の気象条件と秋以降の野外調査によって得られた着花状況から導き出されます。昨年、平成31年春は全国的に過去10年間の平均を大きく上回るスギ・ヒノキ花粉が飛散しました。大量に飛散した翌年は飛散量が少なくなる傾向があり、さらに昨年7月の冷夏、その後の台風の影響も加わって、令和2年の飛散量予測値は過去10年間の平均値を下回り、かなり少ないと発表されています。ただ、すでに花粉症にり患しておられる患者さん方は少量の花粉飛散でも症状が出ますので油断せず対策をとる必要があります。

 最近は黄砂やPM2.5の飛来も増えており、その影響で症状が重くなることも指摘されています。これらの動向にもご注意ください。

 西日本ではヒノキ花粉も多量に飛散し、スギ、ヒノキ両方に反応して症状が長引く患者さんが多く見られます。ヒノキ花粉症にもり患している患者さん方は4月いっぱいまで対策を続ける必要があります。

 花粉症の患者さん方は早い時期から予防の準備を始めておかれるのが良いと思われます。症状がひどくなってからでは薬も効きにくくなります。症状が起こる少し前から花粉シーズンが終わるまで、抗アレルギー薬の服用を続けるのが効果的といわれています。今年も例年どおり花粉情報に注意しながらシーズン前からの早めの対策を心がけてください。

まず、花粉症のことをよく知っておきましょう

  1. 花粉症とは?
    本来は、花粉によって引き起こされるアレルギー性疾患(主にアレルギー性鼻炎)の総称 です。スギ花粉によって引き起こされる「スギ花粉症」の患者さんの数が圧倒的に多く花 粉症といえば「スギ花粉症」といえるぐらいです。鼻の症状が強いので、主に耳鼻咽喉科 医が治療に当たっています。
  2. アレルギー性鼻炎とは?
    アレルギー反応によって引き起こされる鼻の炎症です。
  3. アレルギー反応とは?
    日本語では過敏反応と訳されています。 原因物質(抗原と呼ばれ、花粉症の場合は花粉が抗原となります)が体内入り、体内の抗体と反応してアレルギー症状を引き起こします。これが抗原抗体反応と呼ばれ、一種の生体の防御反応で、アレルギー性疾患の本 態でもあります。アレルギー性鼻炎の場合では、原因物質(たとえば花粉やほこり、ダニ など)が、鼻の中に入り鼻の粘膜でアレルギー反応が起こり、鼻炎の症状が起こります。
  4. 花粉症の症状は?
    a.鼻の症状(くしゃみ、鼻水、鼻づまり、鼻のかゆみなど) 
    b.目の症状(目のかゆみ、涙が多いなど)
    c.その他の症状(のどのかゆみ、耳のかゆみ、皮膚のかゆみ、頭痛、体がだるいなど)

スギ花粉症のことを知っておきましょう

  1. スギ花粉症とは?
    花粉症のうちスギ花粉によって引き起こされるものをいいます。 
  2. スギ花粉とは?
    直径約30ミクロン(1ミクロンは1000分の1ミリ)の粒子で、ちょうど鼻の粘膜に付着しや すい大きさです。気管から肺に入っていくのはもっと小さい粒子で、スギ花粉による喘息 は起こりにくいというわけです。
  3. なぜスギ花粉症の患者さんが増えたのでしょう?
    a日本人の体質の変化
    アレルギーによる病気全体が増えています。食生活の変化や大気汚染が影響しているといわれています。 アレルギー体質の人は全人口の30~40%、アレルギー性鼻炎患者 は全人口の10%といわれています。アレルギー性鼻炎患者の内のほとんどの人が何ら かの花粉に対するアレルギーを持っている花粉症患者であるといわれています。
    b.スギの問題
    大戦中に、空襲でハゲ山になったところに戦後になって大量のスギを植林しました。その 結果多量のスギ花粉が飛ぶようになってしまいました。
  4. そのほかの花粉症は?
    スギ花粉以外でも花粉症は起こります。とりわけ患者さんの数が多いのは、  
木の花粉:ヒノキ、ヤシャブシ:春先 
イネの仲間の花粉:カモガヤ:春から夏 
キクの仲間の花粉:ブタクサ:夏から秋 

花粉症の診断方法や検査は? 

耳鼻科医は、鼻の中を観察し、粘膜の色、粘膜の腫れ、鼻水の状態から診断します。ま た次のような検査のデータも参考にします。 

  1. 鼻汁中好酸球検査
    鼻の中でアレルギー反応が起こっていると、鼻水の中に好酸球というアレルギーに関係する白血球の一種が出てきます。この数を調べれば、アレルギー性鼻炎の有無や、アレルギー反応の強さがわかります。
  2. 皮膚反応検査
    花粉などの抽出液を皮膚に注射し、反応するかどうかでアレルギーの有無を判定します。
  3. 血液中の抗体を調べる
    血液中にどんな物に対する抗体があるかを調べます。抗体が有ればアレルギーの原因物質がわかります。

 治療方法は?

  1. 花粉をさける
    花粉の季節はマスコミやインターネット上の花粉情報を参考にして次のような対策をとって下さい。
     a.外出を控える、外出するときはマスク、めがねを着用する。
     b.家に入る前に服をはたいて花粉を持ち込まないようにする。
     c.布団を干したときは取り込む前によくはたく。
      花粉情報というのはスギの花の様子と気象データをもとに毎日作成され、新聞やテレビ、インターネット上で公表されます。
  2. 抗アレルギー剤
    現在、一番よく使われているアレルギー反応をおさえる薬です。アレルギー性鼻炎にはかなり有効です。副作用として眠気がおこるものがありますので注意が必要ですが、他の副作用はあまり問題になりません。よく「予防薬」という言葉が使われますが、特別な薬があるわけではありません。抗アレルギー剤を症状が起こる前に飲んでおくと薬が効きやすく症状をおさえやすいのでそういう使い方もされるようになりました。もちろん症状が起こってから飲んでも有効です。
  3. ステロイドホルモン
    炎症やアレルギー反応をおさえる力が強力です。その反面、いろいろな副作用もあります。しかし、ステロイドしか効かないほど重症な場合もあります。花粉症の症状は一時的なうえ、鼻の症状は少量のステロイド剤でおさえられるので、重症例にはうまく使う必要があると思われます。
  4. 点鼻液、点眼液
    抗アレルギー剤やステロイドホルモンを含んだ薬剤を直接鼻の粘膜や、結膜に作用させます。副作用が出にくいですが、重症の患者さんには効きにくいのが難点です。
  5. 免疫療法
    現在の所、アレルギー性疾患を根治可能な唯一の治療法と考えられています。花粉などのアレルギーを引き起こす原因物質(アレルゲン)に体を慣らしてしまうというような発想に基づく治療方法です。成功すれば理想的な治療法ですが、欠点もあります。アレルゲンを体内に取り込むことになりますのでショックが起こる可能性があり、慎重な対応が必要となります。
     a.皮下免疫療法
       100年以上の歴史がある治療法です。アレルゲンエキスを少しずつ、数年以上皮下注射し続けます。ハウスダストやスギ花粉などいろいろなアレルゲンに対応できます。
     b.舌下免疫療法
       平成26年から順次保険適応となった新しい治療法です。舌下にアレルゲンエキスを含んだ液体または錠剤を毎日1回投与するという簡便な方法ですが、やはりショックが起こる可能性はゼロではありません。また、治療には数年単位の長期間を必要とします。
       現在はスギ花粉とダニアレルギーの治療にのみ対応しています。
  6. 漢方薬
    数種類の漢方薬でアレルギー性鼻炎に対する効果が確認されています。患者さんの体質に合わせて処方を変える必要があり、また漢方薬でも副作用が出る場合がありますので注意がいります。医師がよく処方するのは「エキス製剤」と呼ばれる粉末で、煎じる必要はありません。
  7. 手術、レーザー
    重症の患者さんの場合には、慢性的な炎症におかされた粘膜を切除したり、またレーザー光線を照射して炎症がおこらないようにしてしまう方法があります。これらは安全な手術で、効果がすぐ現れますが、再発する場合もあり、まだ完全な方法ではありません。

花粉症治療のポイント

治療方法はたくさんありますが根治はなかなか難しく、決定的な方法は確立されていません。ここで述べたことを参考にして一番自分に合った治療法を主治医の先生と探し出すことが重要だといえます。

 軽症、中等症の患者さんに対して現在のお勧めの治療法は、抗アレルギー剤を花粉症の症状が出始める前から飲み始めるという方法で初期療法と呼ばれています。例年は2月中旬に各地でスギ花粉飛散開始日(*)が宣言され、これ以後に多くの患者さんに症状を引き起こす量の花粉が飛び始めるということがわかっています。したがって、飛散開始宣言と同時に飲み始めて花粉シーズンが終わるまで飲み続けておけば症状はかなりおさえられるといわれています。この方法でうまくいかなければ、次の方法を考えていくというのがよいでしょう。

(※)飛散開始日とは、「一測定点で1月以降にスライドガラスの1平方センチメートル内に1個以上スギ花粉が捕集される日が原則として2日以上続いた最初の日」と決められています。 

参考文献

「最新の花粉飛散予測」Medical Tribune、 2019年12月19日
「2020年 春の花粉飛散予測(第2報)」日本気象協会(tenki.jp)
毎日ライフ 2000年3月号 毎日新聞社
これだけは知っておきたい花粉症 斉藤洋三 監修 日本放送出版協会 1997年
花粉症の最新治療 斉藤洋三 著 主婦と生活社 1996年
(川西市耳鼻咽喉科医会)

リンク (花粉情報のホームページへのリンク )

全国花粉情報■花粉いんふぉ(NPO花粉情報協会のホームページ)
兵庫県立健康環境科学研究センター
大阪医科大学耳鼻咽喉科
稲守耳鼻咽喉科医院
ウェザーニューズ (シーズンになると全国各地の花粉予報が提供されます)